にわかに始まる、
食いしんぼの
無花果譚に
お時間があれば
お付き合いを…。
私にとって、
子どもの頃から
馴染み深いもののひとつに、
「無花果の甘露煮」
がある。
まだ青みの残る無花果を、
お砂糖でじっくり、ことこと。
秋になると、
祖母がよく作ってくれた。
うちの甘露煮は、
お醤油をほんの少し。
そして、
お砂糖をぎっちり。
これが定番だった。
正直なところ。
あの独特の渋みと、
ずっしりとした甘さは、
単純で無垢だった
子どもの私の味蕾には、
少々…いや、
なかなか早いお味だったなぁ、
と今になって思う。
…………。
作ってくれていた
ばあばの位牌には、
すでに謝罪済みである。
そんな祖母から、
作り方だけは
これまたぎっちりと
叩き込まれた。
それから、
四半世紀ほど。
今の私も、
無花果を煮る。
ただし。
共通点は、
「無花果を煮ている」
という一点くらい。
お砂糖ぎっちりではなく、
深いルビー色の赤ワインで、
ことこと。
…………。
もはや、
甘露煮ではない。
そう、
これはワイン煮。
甘露煮になるつもりだった
無花果から、
クレームが来ても
仕方がない。
非はもちろん私にあるので、
誠心誠意お詫びを。
手土産には、
赤ワインを
持参すると決めている。
ところで。
無花果という果物は、
昔から何かと
人間に振り回されているな、
と気の毒に思うときがある。
聖書では、
アダムとエバが
自分たちが裸であることに気づけば、
その葉をつなぎ合わせて
身体を隠すのに使われ。
実がなっていなければ、
今度はイエスに
叱られてしまう。
しかもそのときは、
まだ無花果の季節では
なかったという。
…………。
無花果に、
罪はない。
人間が羞恥心を覚えたのも。
実のなる季節では
なかったのも。
無花果のせいでは
ないのである。
なんとも、
巻き込まれ体質な果物だ。
だからせめて私は、
呪ったり、
葉っぱで何かを隠したりせず。
赤ワインで、
美味しく煮る。
たぶんこれが、
令和を生きる私なりの
無花果との和解である。
そんなわけで。
芯までじっくり、
ワインの渋みと香り、
果実の甘みを含ませた、
熱々の無花果。
その横に、
冷たいアイスクリームを
そっと添える。
スプーンで一緒にすくって、
口へ運ぶ。
熱々と、
ひんやり。
ワインのほろ苦いコクと、
アイスクリームの濃厚な甘み。
異なるふたつが、
口の中でゆっくり
とろけ合う。
ひとさじ。
もう、
ひとさじ。
子どもの頃には
わからなかった、
ちょっぴり大人の味。
昔の私が
苦手だった無花果を、
今の私は、
赤ワインで煮て、
アイスクリームまで添えて、
ずいぶんご機嫌に
食べている。
人の好みというものは、
変わるものだ。
そして人そのものも、
きっと同じように
変わってゆく。
真っ直ぐ進んだ道も。
途中で曲がった道も。
思っていたのとは
違った景色も。
振り返ってみれば、
それなりにちゃんと
自分の味になっている。
若い頃のような
青さは少しずつ抜けて。
かといって、
円熟した大人の味を
まといきるには、
まだ少し
煮込みが足りない。
どうやら私も、
まだまだ
ことこと煮込まれている
途中のよう。
さて。
最後には、
どんな味になるのやら…。
それを楽しみにしながら、
今日も私は、
無花果とワインと、
ぎっちりのお砂糖と一緒に
歳を重ねてゆく。
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五十路マダム仙台店(カサブランカグループ)
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