『りあん 奥様』の写メ日記☆

半生?

[2024.07.12(金)21:25:01]

「ここのスパゲティは、いつ食べてもまずいけど、やっぱりおいしいよね」

彼女はミートソース、私はナポリタン。深夜二時過ぎのバーに集まるようになった私たちは、毎週同じメニューを注文する。彼女の主張は至極真っ当で、給食を彷彿とさせるソフト麺の茹で加減が、悪い意味で絶妙なのだ。文句を垂れつつも、どういうわけか同じメニューを頼み続ける、私たち。

「今日は、全然稼げなかった。あんたは良いわよね。若くて乳があるし、座ってるだけでいいんだから」

私は、生活に追われていた。俗に言う苦学生であり、ぼんやりと大学院進学を視野に入れはじめていたので、なおさらお金が必要になった。入学当初から続けていたお水のバイトは、とにかく自分には向いていなかった。そもそも酒に弱く、変に生真面目で冗談も通じないので、酒の席のノリにいつまでも慣れることがなかったのだ。「巨乳の天然ちゃん」というキャラ付けで、ギリギリやっていける程度だった。

「そういえば、あんたモモって源氏名だけどさ。肌は黒いし、腐った桃って感じだよね。あたしは『妖怪』、あんたは『腐った桃』。うちら意外とナイスコンビだよね」

大切な人を失い、愛を探しても見つからず。何をするにしてもうまくいかずに、寄る辺ない日々のなかで。彼女と過ごす時間が、私にとって唯一の生きるよすがだった。

店舗型風俗店に勤める彼女とは、アフターで連れて行かれたショットバーで知り合った。惹かれ合うように意気投合した私たちは、お互いの仕事上がりの時間を合わせて、週に一度ほど集まるようになった。鶏ガラのように貧相な体型で、顔面は皺まみれな彼女の実年齢は、38歳。しばらくは派遣型風俗店に勤務していたが、サバ読みしてると叩かれてしまい(実年齢なのだが)、照明が薄暗く、顔の判別がつかない店舗型風俗店に勤めるようになったという。彼女は竹を割ったような性格で、ずっと一人で喋り続けるので、口下手な私は気を遣う必要がなく、一緒に過ごす時間が心地よかった。

「モモ。見て、また掲示板で叩かれてる。『妖怪おばちゃん口臭やばすぎw』だって。そりゃタバコ吸ってるんだから、ヤニ臭くもなるわ」

掲示板の投稿を見て、彼女はいつも笑っていた。そもそも掲示板の存在を知らなかった私は、心無い投稿の数々に、当初は憤慨していたのだが。「こういうのは、便所の書き込みだから気にしないんだよ。それに、あたしも便所みたいなもんだし」と自虐を交えておどける彼女に、私は仕方なく「ホントにひどいよねえ」と同調するようにしていた。でも、本当はね。顔も知らない誰かの悪意が、少しずつ彼女の心をすり減らして、摩耗させているんじゃないかって。そっと、心配していたんだ。

ちなみに、掲示板の存在を知った私は、自身の通う大学のスレッドを検索したことがある。

「援交してる」「教授と寝たらしいよw」「愛人契約してるって」

私に対する根も葉もない噂が投稿されており、驚愕した。事実無根である。

続く

※次回投稿は、15日(月)になります。




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